実家近くの商店街にある喫茶店には、特別な思い出がある。高校時代、受験勉強の息抜きに通ったその店は、昭和の雰囲気が漂うレトロな場所だった。マスターは無口だが、注文したナポリタンにはいつも小さなサラダが付いてきた。
常連のおじいさんが「若い子が勉強してるのを見ると元気が出る」と話しかけてきて、歴史の雑学を教えてくれた。ある日、模試で失敗して落ち込んでいた時、マスターが「人生は長いよ」と一言。コーヒーをお代わりしてくれた。その一言に、なんだか救われた。
大学に受かった日、報告に行くと、マスターは黙ってケーキをサービスしてくれた。社会人になってからは、帰省のたびに立ち寄る。去年、店が閉店すると聞き、最後にナポリタンを食べに行った。マスターは「新しい人生を始めるんだ」と笑っていた。今、商店街を通ると、喫茶店の看板が懐かしい。あの店は、ただの喫茶店じゃなく、青春の居場所だった。マスターの言葉は、今も私の背中を押してくれる。